天上の洞窟 -3-



貴重な水が、身体を洗うという本来の役割も果たさずに降りしきる。
刹那の後孔に深くペニスを挿したまま、ライルは片手を上げてシャワーを止めた。
濡れそぼった自分の前髪を掻き上げ、また刹那の腰を両手でつかみ直し、抜き挿しを再開する。
シャワールームの壁に取り付けられた手すりを握った刹那は、抵抗も止めて、おとなしくこちらに尻を差し出している。
何の抵抗もなくセックスを受け入れるくせに、今までどんな扱いを受けていたのか、刹那は身体を他人に洗われることを本気で拒否していた。
拒否しながら、首まで赤くなっていた。
どんな苦痛を与えても本気で抵抗することがなかった刹那が、本気で、ライルに身体を洗われることを恥じていた。
たまらなかった。
喉から舌の根から燃え尽きそうな熱がこみ上げて、それを飲み下すと、脳が溶けた。
まさに獣の欲だ。
勢いをつけて、刹那を突く。
「…ンぁッ、…ンッ、」
さっきよりも柔らかい刹那の内壁が、さらに粘つくように、ペニスの先端に絡みついてくる。
後ろから入れることで、より深いところに届いているようだ。
腰を打ちつけると、最初よりもずっと速いスピードで、そこからの熱が全身に染み渡る。
再度の絶頂は、すぐそこだ。
あまりにも安易な高まりに、悲しみすら覚える。
ぶつかりあう腰と臀部が、繰り返し、湿った拍手のような鋭い音を立てる。
もっと強くぶつけて、もっと音を立てて、刹那の聴覚すら犯してやりたい。
深く刹那の肉に分け入りながら、ライルは悲しみをいっそうの欲に塗り替える。
短く繰り返される刹那の悲鳴は、もう力無い。
力無い声をこぼしながら、ライルの動きに合わせて、刹那の臀部がうっすらと前後に揺られ始めた。

───こいつ、マジで…?

信じられない。
埋め込まれる肉茎をもっと欲しいと、もっと長く体内にとどめておきたいと、揺られる臀部が、浅ましく求めている。
ライルの溶けた脳が、もはや焦げつく。
頭痛に近い快感が、頭蓋いっぱいに沸騰した。
そんなに欲しいなら、くれてやる。
おまえが、粉々になるまで。
「腰、もっと振れよッ…!できんだろ!?」
動きを止めずに低く叫ぶと、刹那の背中が一瞬こわばり、すぐに大きく臀部が揺られ始めた。
怒りも、欲も、落胆も、もう境目がわからない。
刹那のその動きに、いくつものライルの感情が、ライルの中で音もなくぶつかり合い、砕け散り、恐ろしいほどの絶頂感と一緒に、墜落した。
墜落してもなお、刹那の内壁はライルを追って、淫らにライルを絞め上げてくる。
呻いて、最後のひと突きの後で、ライルは動きを止めた。
そこへねじ込むように吐精しても、まだ身体の震えが止まらない。
今まで経験したことがない快感だった。
ライルは肩で息をつき続ける。
名残惜しげに収縮を繰り返していた刹那の後孔が、ようやくゆるんだ。
震えながら、ずるりとペニスを引き抜く。
「………ァ…」
ぞっとするような甘さを含んだ、悲鳴にそっくりな吐息を、刹那がつく。
ライルの腕の中で、刹那の腰も震えながら、ゆっくりとのたうった。
奥深くまで、刹那の肉の柔らかさを十分に味わったペニスは、白濁した粘液をまんべんなくまとわりつかせている。
背後からライルに突かれ続け、声も嗄れたのか、刹那は腰をライルに抱え込まれたまま、顔を上げる気配もない。
すがりつくようにシャワールームの手すりを握りしめる刹那の背中は、汗とも水ともつかないたくさんの水滴にまとわりつかれて、キラキラと光っている。
ライルはもう一度、シャワーのスイッチに手をかざした。
何事もなかったように、天井から温水が降り始めた。




息が苦しい。
速い自分の吐息が、内側から聴力を塞ぐように、頭の中で響いている。
刹那は薄く眼を開けた。
早く体勢を立て直そうと思うのに、視界はぼんやりと狭まったままだ。
ライルがスイッチを入れたのだろう、止まっていたシャワーがまた作動し始めた。
脳はもとより手足の先まで、荒れ狂う熱に満たされていた身体は、また温水を受け止めて熱を上げようとする。
壁面の手すりから手を離して立ち上がりたいが、ライルは刹那の中からペニスを引き抜いても、まだ刹那の腰を抱えたままだ。
すべてが終わっても、身体の中が熱い。
後孔はまだ、ライルの太さを記憶したまま甘く腫れている。
身体の奥底に与えられる熱と衝撃で自我が破壊されるあの感覚は、恐怖であるはずなのに、恐怖であると同時に、底の知れない快楽を連れてきた。
快楽に、抗えなかった。
規範も、自戒も、脳量子波も、何の役にも立たない。
快楽は、刹那の思考も身体も支配し、いっそうの快楽を求めて、刹那の存在すらも透明に融かした。
ライルのペニスに満たされ、中から突かれながら果て、果ててもまだ突かれるあれ以上の快楽を、刹那は知らない。
恐怖なら、数え切れないほど味わってきた。
その恐怖を飼い慣らし、できる限りなかったことにするのが、刹那の知っている、セックスという行為だった。 
その認識が、根底から崩れ去った。
過去の数々の行為とまったく同じことを、あるいはそれ以上のことをされているのに、相手がライルであるというだけで、こうも世界は転覆してしまうものなのか。
肺が、喉が、目が、なぜか痛む。
震えるまぶたを、刹那はようやく押し上げる。
灰色のスクリーンをかけられたような視界が、収拾もつかないほど歪む。目に映る床の歪みは、落ちてゆく水滴の湯気が絡み合っているのだろうか。
それとも自分の目の中の水膜が、張力バランスを失って揺れているのか。
ライルはまだ刹那を離さない。背後から刹那を抱え込んだまま、一言も発さない。
ライルの吐息を、背中に感じる。
濡れた髪束らしい柔らかいものが、温水と一緒に、刹那の肩甲骨のあたりにまとわりつき、ライルの腕が、ゆっくりと刹那の腰を抱え直す。

───早く、放してくれ。

そう思いながらも、ライルの頬らしい肌の感触が背中に触れると、刹那の身体の中に、また熱が灯る。

───やめてくれ。

恐怖すら凌駕した快楽が、まったく質の違う、別の恐怖になり代わってゆくのを感じる。
これも、いや、これこそが、本当の罰なのだろうか。
耐えきれずにまばたくと、目頭に熱い水滴が湧き、それは天井から降る水と一緒に、すぐに床のダクトに吸われて消えていった。




二度目の後孔の洗浄に、刹那は抵抗しなかった。
そこに指を挿し込むたびに身体は震えるものの、身体を何度も暴かれて精根尽き果てたのか、刹那は人形のように無反応だった。
最初の興奮などきれいさっぱりなかったように、ライルもどこか興醒めしたまま、刹那と自分の身体を洗い終えた。
シャワールームのドアを開けると、先刻脱ぎ捨てた靴や制服が、そばの床近くにバラバラと浮かんでいた。それらを足で乱暴にかきわけ、ライルは室内をきょろきょろと見渡してから、まだシャワールームの中にいる刹那を振り向く。
「タオルは?」
刹那は床近くにうずくまるようにして身体を丸めていたが、ようやく顔を上げた。
「………すぐ、左の。コン、テナに、入っている」
伸ばしきれない指で指さされた壁面のコンテナから、ライルはタオルを引っ張り出す。
そのまま、ドアを開けっ放しのシャワールームにとって返した。
刹那の腕を引き、ふわりと立ち上がらせ、シャワールームから引きずり出して頭からタオルを被せた。
被せたそれを、わしゃわしゃと髪ごと乱雑に揉んでから、ライルはさらに乱雑に、刹那の肩口を拭ってゆく。
「…自分で…拭く」
弱々しい声も、拭く動作をさえぎってくる手のひらも払いのけ、ライルは刹那の腹部あたりまでを拭き上げると、再び刹那を引きずってベッドまで連れてゆき、ぽんとそこへ突き飛ばした。
ここが地上でなくてよかったと思う。地球の重力下なら、こんなに軽々と大の男を引きずり回すことはできない。
この間の休暇の時は、ベッドまで歩くのもつらそうな刹那に手を貸そうか貸すまいか無駄に迷って、結局貸さずに放置した。
その後味の悪さにさいなまれる自分にすら腹を立てて、ライルは本当に無駄に疲れたのだ。
微重力の中で、ベッドの上にゆっくりと尻もちをついた刹那は、一緒に突き飛ばされたタオルをふわふわと握りしめ、何かをあきらめたような顔をしている。
わずかに腹の中で焼けたいらだちを、ライルはまた吐息と一緒に吐き捨てた。

───ああまだやんのか、みたいな顔しやがって。

おまえがそんな顔してる間はもうやらねぇよ。
心に浮かべた言葉にまた自分でいらだってしまう。
「先に寝てろよ」
言い捨てて、ライルはふいと刹那に背を向けた。
まるで、自分がこの部屋に泊まることがずっと前からあたりまえであるような口をきいてしまったが、濡れた服はまだ乾いていないし、全裸で室内をうろつく趣味もないし、とにかく今は疲れている。
全裸のまま、ライルは床に散らかった衣類を拾い始めた。