水は鋼鉄の味



どのくらい歩いただろう。
街はずれの砂ぼこりの中で、ニールは立ちつくす。
この街に着いて早々に、通訳とはぐれてしまった。かつて観光業が盛んであった、このアザディスタンには英語を話せる人間が多い。それでも、今回のニールの仕事を完遂するためには、より詳しく現地語を解する人間が必要なのだ。

───こいつぁ…しょっぱなから、やられたか。

前払いの報酬を握って、通訳の男は人ごみの中に消えた。
砂ぼこりを透かして晴れ渡る空は、ただ青い。
脱力感と暑さにやられて、ニールは手近な建物の影にへたり込む。
フードつきの薄いジャケットごときでは、この砂ぼこりと日光をきちんと遮ることができない。
スーク(市場)で先にマントを買っておけばよかったと後悔するが、もうスークからはずいぶん離れたところまで来てしまった。
街はずれだというのに、こんなに立派な門構えの建物があるのがありがたい。
その「門」の下で日差しから逃れつつ、ニールは視線を上げた。
「門」には仰々しいドーム状の屋根が乗っかっている。
見上げる丸天井の内側にも、そばの柱の表面にも、白と青のタイルがびっしりとはめ込まれ、細かい紋様を形作っている。
これが話に聞くモスクというやつか。
モスクにしては人が少ない。
少ないというか、まったく人の姿がない。
「門」の奥に広がる石畳の庭園にも、人っ子一人見当たらない。
日光を反射してただ白い石畳の彼方には、モスク本宅?のような立派な建物が見えているが、動く人影もなく、ただ噴水の水音だけが、サラサラと涼しげに流れてゆく。
砂漠の街に場違いな水音に、ニールは息を飲んだ。
彼方の「本宅」の方がほんの少しだけ高地にあるのだろう、ゆるい階段状の水路が庭園をまっすぐ貫き、、門前の四角い池に流れ込み、水を低く噴き上げているのだ。
池の底にまで敷き詰められたタイルは、天空に負けず劣らず青い。
噴水のあまりの美しさに、ニールの喉が鳴った。
「門」の影から出て、水辺に歩み寄る。
左手の手袋を引き抜き、右も抜き、ジーンズのポケットにまとめて突っ込んで、指先だけでも冷やそうと、青い水に手のひらを沈める。
ぬるい水が指先に絡みついた。
その感触に安堵する間もなく、すさまじい殺気に背筋がしびれる。
パン、と甲高い破裂音が響いた。
濡れた手のまま、とっさにうずくまったニールの数メートル先で、石畳が割れ、かぼそい粉塵が舞い上がる。
兆弾だ。
振り向くと、「門」の下に子供が立っていた。
「出ていけ」
かろうじて変声期を超えているのか、ライフルを構えたその子供の声は、幼い顔に似合わず低い。
黒い髪に、浅黒い肌。
研磨していないルビーのような赤褐色の瞳には、表情がない。
砂除けに巻いているのだろうか、口元近くまでを覆う白っぽいマフラーが、彼の肌をいっそう浅黒く見せている。
子供であるのに、彼は子供ではなかった。
「観光客か?」
これまた表情のない声で尋ねられ、銃口がぴたりとニールの顔面に向けられる。
噴水のそばでうずくまったまま、ニールはゆっくりと両手を上げた。
本当にしょっぱなから、ついていない。
隣国を挟んで政情不安が続くアザディスタンには、国内のすみずみにまでゲリラ兵が潜伏している。
その中でも、少年兵はとりわけ残虐だと聞いている。
幼い頃から戦闘技術を叩き込まれた彼らには一片の理屈も通じない。
銃を突きつけられたらおとなしく有り金を出すべし、と、取引先のエージェントにはしつこく念を押された。
その、想定しうる限りの最も最悪な状況に、仕事のしょっぱなから陥ってしまったのだ。
「観光客か?答えろ」
尋ね直され、ニールは残り少ない唾を飲む。
「観光に来たんじゃない。仕事で来た。道に迷って喉が渇いた。水が欲しかった」
嘘はついていない。
黒い髪の子供はやはり無表情だ。
「ここの水は俺たちが管理している。ここには二度と近づくな」

───なるほどね。

それで、門前にも、門の中にも、人の気配がなかったのだ。
水を制する者は世界を制す。
それなりに賑わっていたあのスークもすべて、残虐の代表のようなこの少年兵たちに───正確には、少年兵を束ねる武装組織に支配されているのだ。
「立て」
ライフルを構えたまま子供はぴくりと顎をしゃくる。
出ていけ、という最小限のしぐさだった。
ゆっくりと立ち上がり、ニールは子供に、いや「門」に向かって歩きだした。
ライフルの銃口も、ゆっくりとニールを追う。
いつも砂を浴びているのか、その銃身はうっすらと白く汚れている。
ホールドアップしたままのニールの手首から、水滴が滑り落ちてゆく。
水滴が肘にまで浸みた時、ニールはようやく門外へ出た。




とりあえず、先は長い。
熱中症寸前でスークにたどりつき、ニールは水売りの老人から水を買った。売り子を選んでいる余裕などなかったせいか、なかなかの値段をふっかけられたが、それならこちらにも考えがある。
「この街にあるホテルを教えてくれ。いくつでもいい。ホテルの数だけ水を買う」
白髪混じりの分厚い眉毛の下で、老人の青灰色の瞳がギロリと動いた。
同じように白髪混じりのヒゲに埋もれた口元も、小さく歪む。
観光客に慣れていても、歓迎とは無縁の表情だ。
それでもかまわない。
ニールもにこりと口元を歪めた。
このアザディスタンでの、この「仕事」にたどりつくために、家も家族も捨ててきた。
この仕事さえ果たせれば、世界中の人間に憎まれようとまったくかまわないのだ。
老人の口元から、いくつかのホテルの名前がこぼれてくる。
その耳慣れない発音を、ニールは脳の奥深くに刻んだ。




三階の部屋を希望しただけで、ずいぶん割増料金を取られた。
ホテルの客室の窓から通りを見下ろして、ニールはため息を奥歯で噛みつぶす。
もっとも、高層ビルなど存在しないこの小さな街では、三階建て以上の建物は限られているから、当然と言えば当然の料金設定かもしれない。
怪しげな武装組織に牛耳られているとはいえ、この街はまだ戦闘や空爆とは無縁だ。現地の住民に加えて、観光客や、ここを足掛かりにして紛争地域に出入りする各国のジャーナリストで、通りは予想外の賑わいを得ている。

───皮肉なもんだ。

武装組織に恐怖で抑えつけられているがゆえに、治安は落ち着いている。
ヤツらの意志に反さなければ───そう、立ち入りが禁止されている最上級の水場に踏み込んだりしなければ───かりそめの安全は保障される。
目立たず、逆らわず、おとなしくしていれば、外国人のニールですらも、世界中から集まってくるジャーナリストに紛れていられるのだ。
仕事をするために、これ以上の環境はあるまい。
愛用のライフルを持ってこられなかったのが悔やまれるが、入国審査のゴタゴタを考えるとやむをえなかった。
銃は、調達係のエージェントが明日届けてくれることになっている。
しかし、しょっぱなから報酬持ち逃げにぶちあたるくらいだ。この国でどこまで時間通りに、注文通りに事が運ぶのか予測はつかない。
おまけに、手袋を片方、あの噴水の前に落としてきた。
水に目がくらんで、いいかげんにポケットに突っ込んでおいたのが良くなかった。手袋の右は残っているから、トリガーを引くのに支障はない。しかし、銃床(ストック)を握る左手がスリップするかもしれないと思うと落ち着かない。
泥棒よけにしては優美な、幾何学模様の格子窓の向こうが、ふと明るくなった。
通りの向かいの店先に、灯りがついたのだ。
それを合図にするかのように、あちこちの窓や、店の軒先に、ゆっくりと灯火が増えてゆく。
夕闇が濃くなっている。
どこからか、甘さとほろ苦さが混じり合った、食べ物の匂いが漂ってきた。
夕食には少し早いが、食事のできる店を探しに出た方がいいかもしれない。
ニールが窓際から離れた時、部屋のドアがノックされた。
銃の配達にしては早すぎる。
「ルームサービスを持ってきた」
ドア向こうから、若い男の声がする。
「頼んでねぇけど?」
答えながら、ニールは部屋の壁際にそっと身体を寄せた。
ドアごと狙撃されてはかなわない。
男の声はなおも無愛想に問うてくる。
「割増料金を払っただろう」
「え?あれってそういう…」
「料理が冷める。開けてくれ」
壁際をたどりながら、ニールはようやくドアのそばにたどりついた。
ドアスコープを覗くと、ターバンを頭に巻いた少年が、ピクニック用のバスケットのようなものを提げて立っている。
さっきからの、甘くてほろ苦い匂いの正体はこれだったのだ。
押し売りにしては手が込んでいる。
早く追い払って夕食に出たい焦りと、料理によっては考えてやらなくもないという重大で小さな葛藤を数秒噛みしめ、壁際に身体を寄せたまま、ニールはドアの鍵を開けた。
足音もなく入ってきた子供の顔を見て、今日二度目に背筋がしびれる。
ターバンで固定された、長い前髪の影でよく見えなかったその瞳は、夕闇の暗がりの中でも赤い。
「おまえ…」
赤褐色の瞳もこちらを見上げて、ぴたりと身動きを止める。
そしてすぐに、何の動揺も見せずに自分でドアを閉め、固まっているニールをよそにすたすたとサイドテーブルに歩み寄って、提げていたバスケットをそこに乗せた。
「おまえ、…ここで働いてる…のか?」
驚きで、ニールの吐息が途切れる。
サイドテーブルの上の、小さなランプのスイッチを、少年は慣れた手つきですいとひねった。
夕闇が浸みていた部屋に、頼りないオレンジ色の光がぽつりと灯る。
温かいがどこか妖しいその光の中で、少年は自分の頭に手をやり、白いターバンをするすると解き始めた。
目を閉じて小さく頭を傾げるその姿に、ニールの胸がずきりと痛む。

───こいつは。

だめだ。
危険。
無謀。
不安。
どんな言葉でも言いきれない。
「おい。何してる?」
絶望的な問いを問いかけても、少年はふと顔を上げたまま、答えない。
白く長いターバンは、脱ぎ捨てられた下着のように、ニールが横になるはずだったベッドの上で、とぐろを巻いている。
「…来ないのか?」
昼間ライフルを構えていた時とまったく同じ口調で、少年が呼びかけてくる。
「こっちへ来い。サービスができない」
こちらが客だというのに、なぜこんな子供に、こんなところで命令などされているのだろう。
血の気が引くような疑問を、肺の奥底までやっと、飲み下して。
「ルームサービス」の真の内容を、ニールは理解した。


***

「久しぶりの仕事だぜ。よかったな。ソラン」
その男の口調は、毒々しい冷たさに満ちていた。
出来たての焼き菓子を詰めたバスケットを男から受け取り、ソランは無言で厨房を出て、今夜の仕事先である三階の客室へと向かう。
このホテルにエレベーターはない。この街で最上クラスのホテルであっても、街自体が小さいので、ビルとも言えない三階建てがせいぜいだ。
管理が行き届かずほこりっぽい階段を登りながら、ソランはほんのわずかに唇を歪めた。

───誰が、見ていたのか。

昼間、水場に侵入してきた外国人をそのまま逃がしたのがばれて、久々にここの「営業」に回されてしまった。
外国人からは必ず金目のものを奪取するのが決まりだ。
今日に限って、つい面倒で、何も取らずに追い払ってしまった。
人気のない庭園だからと油断していたが、あのやりとりを誰か見ていた者がいて、サーシェスに告げ口したのだろう。
サーシェスの取り巻きに嫌がらせをされるのは初めてではない。
彼らは、ソランの口が固いのをいいことに、何かと突っかかってくる。
自分たちがサーシェスの寝室に出入りできないことが、そんなにも悔しいのだろうか。
彼らは何もわかっていない。
サーシェスは、他人にソランを抱かせて眺めるのが好きだ。
たとえそれがどんなに歪んだ遊戯であっても、そんな歪みは、ソランには少しも関係がない。
他人に抱かれた後のソランを、楽しそうに罵りながらサーシェスは抱いてくれる。
サーシェスの喜びは、ソランの喜びだった。
この「営業」のあとでそんな時間が待っているのだとしたら、これはソランにとって嫌がらせにはなりえない。むしろご褒美だ。
歪んだ唇をそっと解いて「営業」の顔に戻り、ソランは「その部屋」のドアをノックした。




出来すぎた展開に、身体の力が抜ける。
壁際でうろたえる男を見つめ、ソランは吐息を噛み殺した。
「営業」の相手が、逃がした例の男だとは。
昼間に金品を巻き上げられなかった分、ここでそのツケを払ってもらえばいいということか。
整然と割り切って、ソランは男に歩み寄った。
「おい!何すんだ!」
悲鳴のような質問を無視して、ソランは男のベルトに手をかけた。
バックルを外したところで、男に両肩をつかまれ、揺さぶられた。
「やめろ!おれは子供とどうこうする趣味はない」
欧米の客はいつも、小柄なソランを子供と信じて疑わない。
ソランは十七歳だ。
ソランは客に年齢を明かさない。
「子供」とどうこうすることの楽しみと後ろめたさを、客にしっかり植えつけた方が商売になるからだ。
「サービスの内容を決めているのは俺じゃない。サービスしないと俺がボスに殴られる」
男のベルトに手をかけたまま、ソランがお決まりのセリフを浴びせてやると、男の反抗的な動きが止まった。
どんなに生真面目そうな客でも、いや、生真面目な客ほど、このセリフを浴びせればおとなしくなる。
嘘は言っていない。
他人に言えない「サービス」を強制的に提供し、客の後ろめたさを利用して「割増料金」を釣り上げる───ごく普通の「営業」だ。
男の腕の力がゆるんだ隙に、ベルトを一気に引き抜く。
「…おい!」
ソランはすばやくひざまずき、あらわになった男の下着の中からペニスを引き出した。
声にならない男の吐息をよそに、すぐにそれを口に含む。
前置きなど何もいらない。
咥えられれば、たいていの男はそれ以上抵抗しない。
白人のペニスがそこそこ大きいことは知っているが、この男のそれはひときわ太い。
一気に喉の奥まで咥え込むと、それは跳ねるようにソランの口の中で膨張した。
もっと固く膨らむように、唇に力を込めて、締め上げてやる。
「は…ッ、…」
男の腿ががくがくと震えた。
空いた左手で男の下着を引きずり降ろし、整えられた性毛の中に沈んでいた陰のうを揉みしだく。
心の準備の整わない男を陥落させるには、スピードが大事だ。
揉みしだく左手のリズムと、ペニスを咥えて動かす唇のリズムをシンクロさせると、何往復もしないうちに、男の吐息が荒くなった。
ペニスを咥えて頭を上下させながら、ソランは片手で自分の下衣を脱ぐ。
頃合いを見てペニスを吐き出し、膝まで下ろした自分の下衣のポケットから、クリームのケースを取り出して、ソランは男の右手をつかんだ。
「なに…」
「指を。俺のここに入れろ」
もう片手でソランが自身の尻を指すと、男の表情は面白いほどこわばった。
「出来るかよ…そんな、」
往生際が悪い。
男の右手にクリームを塗ってやることを、ソランはすぐにあきらめた。
あきらめる代わりに、あられもない格好で壁に張り付いたままの、男の片膝を抱え込む。
「うわ!」
身体のバランスを崩し、男は背中を壁に預けたまま、ずるずると床に崩れ落ちた。
すかさず、男の腿の上にソランは馬乗りになる。
男の下半身も、ソランのそこも、もうすっかり衣服が乱れ、腿も尻も丸出しだ。
男の腿にまたがったまま、膝にまとわりついていた下衣をソランは自分で引き抜いた。
剥き出しになった自分の尻に、取り出したクリームを塗り込める。
そして、尻を上げた分、前屈みになった上半身を、男の胸元にぶつけるようにもたせかけた。
いきなり胸元に頬ずりされ、男の胸筋がびくりとこわばるのがわかる。
そのままシャツ越しに乳首を舐めてやると、また抵抗されそうになった。
空いていた左手で、ソランは男の陰のうを握り直した。
「ぅ…あぁ!」
急所をホールドされ、ソランの両肩をつかんだまま、男は身悶えている。
その間にも、ソランは自分の後孔に二本、三本と指を挿し込んで揉みしだく。
ゆるく勃ち上がったソランのペニスと、男のペニスが触れ合った。
それ自身には触れられず、乳首と陰のうを刺激されているだけなのに、男のペニスは隆々と膨らみ、裏筋もあらわにソランのそれとぶつかり合い、水音を立て始めた。

───もう、濡れている。

態度とは裏腹に、もう濡れそぼるほど、男のペニスは興奮している。
クリームを塗る前から、こんなに先走りで濡れてくれるとは。
ソランの腰が、ぶるりと震えた。
後孔をほぐしながら腰を押しつけてやると、みっちりと湿った温もりが、ソランのペニスにまとわりついた。
もっと、熱が欲しい。
待ちきれなくて、ソランは後孔から指を抜いた。
ずちゅ、という水音と、引き抜く摩擦感に、また腰が震えた。
膝を立て、男のペニスを右手でわしづかみ、大きくのしかかる。
「だめだ、やめろ、やめ…やめてくれ…ッ!」
次の展開に気づいた男が悲鳴を上げる。
犯されるのはこちらだというのに、これではまるで、この男をレイプしているようだ。
男の声色の必死さにぞくりとしながら、ソランは充血した肉茎を握りしめ、後孔にあてがった。
腰をゆったりと回しながら、巨大なカリを孔にめり込ませてゆく。
「……ふ…ゥ……、」
細く長く息を吐くと、ずぶりと熱い肉がソランの内壁を食んだ。
本当に大きい。
快感を待ち切れず、体重をかけて腰を落とす。
みちっ、と粘液が鳴った。
「やめ…あぁっ!」
男はまだ悲鳴を上げている。
うるさくてかなわない。
ソランは感覚を後孔に集中させた。
あまりの大きさに、油断すると声が出てしまいそうだ。
サーシェス以外の相手に声はできる限り出したくないが、ある程度声を出せば、相手も興奮して、早く射精してくれる。
買春に慣れずに腰が引けまくっているこの男をいかせるには、いつもより演出が必要だろう。
考えるそばから、男の太いペニスがソランの思考をかき乱す。
「ゥ……ンッ……」
みちみちと粘液が鳴り続け、ソランの中に肉が食い込んでゆく。
尻を振るようにして男の腰に擦りつけ、時間をかけて、ソランは身体の奥までそのペニスを収めた。
「ハ…ァ……」
震えが止まらない。
いつもこういう仕事はできるだけ短い時間で終われるよう、努力してきた。
だが今日は、心のどこかで、すぐ終わりたくないと思っている。
この男なら、このペニスで後孔の最奥を突いてくれるかもしれない。
その期待をあきらめることができない。
震えながら、ソランは腰を動かし始めた。
挿さったペニスが抜けないよう、背中を反らすと、男が急に肩から手を回し、抱き寄せてきた。
「アッ、…、」
上半身が密着して、結合が確かなものになり、反射的にソランの喉から声が漏れた。
ペニスを内壁になじませようと、男にしがみついたまま上下に細かく腰を揺らす。
耐えきれない風情で、もう一度男がうめいた。
観念したのか、肉の感触に耐えられなくなったのか。
ここまでされても自分から動こうとしない男も珍しい。

───早く。

早く堕ちろ。
男の腿にぶつけるように、腰を落とす。
すぐにまた持ち上げて、後孔で男のペニスを擦り上げる。
「ハッ、…ハ、ァ、…」
びく、びく、と震えながら太さを増すペニスに、ソランの息が上がる。
最奥にはあと少し、足りない。
いらだって、男の首筋に舌を這わせると、ぐるりと景色が反転した。
「…!」
繋がったままで、男がソランを床に引き倒したのだ。
床にぶつけた後頭部の痛みで、ソランの視界に火花が散る。
同時に両足を抱え上げられ、激しい抜き挿しが始まった。
「アッ、アァ!」
腸の中へ中へと突かれ、ひと突きごとの衝撃に、ソランの喉の底から意図しない声が押し出される。
あと、ほんの少し。
背中が浮くほど尻を持ち上げられた時、内壁の「そこ」を、男のペニスが軽く擦った。
「…ッ!ァァ……ッ!」
演出も忘れ、声を漏らす。
男が息を飲む音が聞こえた。
もう一度突き入れられて、抑えられない声と一緒に、白いしぶきがソランの首筋にまで飛んだ。
自分の精液の感触に、またソランの背筋が震え、震えは収縮を呼んで、後孔の中のペニスをきつく絞り上げる。
「うぁぁッ…!」
耐えきれなかったのか、男も声を上げた。
さらに膨れ上がったペニスが、ソランの肉壁を引き裂くように押し拡げる。
その太さで、もっと奥まで。
「突け…ッ、」
うめいて、ソランが両足で男の腰を捕らえる。
男はソランの足を振りほどき、つかみ直し、上から後孔にねじ込むように、肉茎を突き下ろしてきた。
「アァ───!!」
限界を超え、あふれた粘液が数滴、床に散った。
今度こそ最奥を突かれ、その巨大な肉茎を逃すまいと、ソランは本能で後孔を締め上げる。
また男がうめいた。
「ふ、ぅぅ、……!」
その苦しげな声音に、ソランの背筋が震え上がる。
先刻の射精で萎えかけたソランのペニスが硬さを増し、男に身体を揺さぶられるたびに、水音を立てて揺れた。
肉茎は渾身の力で引き抜かれ、突き下ろされ、ソランを犯す。
数度、肉のぶつかり合う音が続いた果てに、ようやく「そこ」へ、男の精液が注がれる。
その熱量に、ソランは長い悲鳴を上げた。




荒い吐息を耐えて、ニールは唇を噛む。
噛んでいないと、何か変な声を上げてしまいそうだった。
いや、いまさらかもしれない。
声ならもうさんざん上げてしまった。
ニールの身体の下には、名前も知らない子供が、まだニールに犯されたまま横たわっている。
子供はニールと同じように息を荒げている。
満足そうに目を閉じ、顎をのけぞらせて喘いでいる、その姿を見ているだけで、また勃起してしまいそうな恐怖すらわいてくる。
いまここに拳銃があれば、それで自分の頭を撃ち抜いてしまいたいくらいの恐怖だ。
こんなにも怯えているのに、脳も、身体も、快感の余韻にしびれている。
泣き叫びたい嫌悪を身体じゅうに押し込めながら、ぐずぐずになったペニスを子供から抜くと、子供は腰を震わせて、笑むように息を吐いた。
そのさまがあまりにつらくて、ニールは子供から目を逸らした。
「なぜ泣く?」
数秒前の快感を瞬時に払い落として、あの無表情な声で、子供が問う。
問われたとたんに、いつのまにか頬を伝っていた涙が、ぽとりと真下の、子供の唇に落ちた。

───ただ。

ただ、水が、欲しかっただけなのに。
ただ水が、この喉を湿らせてくれるものが、乾いた吐息を落ち着かせてくれるものが、欲しいだけなのに。
噛みつぶした唇をゆるめて、ニールは嗤った。
嗤うと、唇から、唾液とは違う液体が流れ出すのがわかった。
本当に、先は長い。
KPSAのボスの脳天を撃ち抜くまで、このアザディスタンから、このホテルの部屋から、出ていくわけにはいかない。

嗤って飲み込んだ涙は、腥い、鉄の味がした。